高水分水稲収穫に適応する車速制御/井関農機と農研機構が開発

農研機構(久間和生理事長)と井関農機(株)(冨安司郎社長)はこのほど、コンバインによる収穫作業中に、穀粒水分に応じて作業速度を自動制御する車速制御技術を共同開発した。この技術により、降雨後や朝露が付着した高水分の水稲を収穫する際でも、従来と比べて穀粒損失(=全収穫穀粒に対するコンバイン機体後方から排出された穀粒の質量割合)を約3分の1まで低減できる。これにより、作業可能な時間帯が増え、コンバインの1日当たりの作業面積を約3割拡大することが可能となり、担い手にとっての水稲生産性向上に大きく貢献する。
コンバインによる収穫作業では、籾が十分に乾燥していない場合、本来収穫すべき籾の一部が誤って機体後方から排出されてしまい、穀粒損失が生じる。このため、穀流水分が高くなる朝夕の時間帯は作業が行われていないという課題があった。
今回開発した技術は、籾の湿り具合(穀粒水分)に応じて、コンバインの車速を自動制御するもので、収穫すべき籾が排出されてしまうのを防ぐことができる。
実際にこの技術を用いて、降雨後や朝露が付着した高水分の水稲を収穫した場合、従来と比べて穀粒損失を約3分の1まで低減できる。これにより、これまで収穫作業が行われていなかった朝夕の時間帯にも作業が可能となり、仮に朝夕それぞれ3時間ずつ作業時間を拡大した場合、1日当たりの作業面積は約3割拡大するなど、担い手にとって、水稲の作付拡大や生産性向上に寄与する技術となることが期待できる。
この事業の予算は、運営費交付金(農業機械技術クラスター事業)、特許は「特開2024―60694」。なお、この技術は、2026年度に井関農機により実用化される予定。
また、この技術の導入により、担い手や農業支援サービス事業体の作業面積拡大が期待される。
〈開発の社会的背景と研究の経緯〉
水稲のコンバインでの収穫作業においては、朝露や夜露が付着していない時間帯(例えば0~16時)が推奨されている。これは、機体の中で籾がべとつかず、収穫すべき籾が誤って排出される穀粒損失(全収穫粒に対する、コンバイン機体後方から排出された穀粒の質量割合)が少ないため。
しかし近年、担い手の生産規模が急拡大し、作業面積も増加傾向にある一方で、コンバインの台数を増やすことはコスト面で大きな負担になっている。さらに、気候変動の影響により、降雨前の空気が湿っている時や降雨後の高水分状態の水稲を収穫せざるを得ない場面が増え、コンバインの穀粒損失の著しい増加や作業効率の低下が問題になっている。
こうした現場の課題を解決するため、農研機構、井関農機、宮崎大学、岩手県農業研究センター、農林水産・食品産業技術振興協会はコンソーシアムを結成し、2023年度から農業機械技術クラスター事業として、降雨後や朝露が付着した高水分水稲(穀粒水分25%以上)にも高い適応性を持つコンバインの開発・実用化研究に取り組んできた。
本研究では、穀粒水分に応じて車速を制御することで、高水分水稲(穀粒水分25%以上)を収穫した場合のコンバインの中での濡れた籾の流動性低下を抑制して機体後方から誤って排出される穀粒損失を低減できることを見出し、この技術を実用化することで1日当たりの作業拡大を目指している。
〈研究の内容・意義〉 1 本技術は、穀粒水分と収穫量のデータをもとにコンバインの最適な作業速度を計算し、自動で車速を制御するもの。水分測定部と質量測定部を備えた収量コンバイン(=穀粒水分計と質量計を搭載し、収穫作業中に穀粒水分およびグレンタンク内穀粒質量の測定が可能なコンバイン、井関農機HJ6130、6条刈、95・6キロワット)に適用される技術。
2 制御方法としては、基準となる穀粒口流量(注=穀粒口<グレンタンク上部>からグレンタンク内に収容された穀粒の、単位時間当たりの質量)と平均作業速度の比、および穀粒水分の関係から、穀粒損失が3%以上となる収穫作業NG領域に入らない最適車速域を、事前の実験で求めて制御アルゴリズムに組み込んでいる。このアルゴリズムにより、収穫作業中に穀粒水分(電気抵抗式単粒水分計の10粒平均値)が更新されるたびに作業速度が自動で調整(穀粒水分が高い時は作業速を落とし、穀粒水分が低い時は作業速度を上げる)され、作業能率の最適化を図る。そのため、降雨後や朝露付着した状態でも、穀粒損失を抑えた作業が可能となり、作業者による操作は不要。なお、車速制御が機能する穀粒水分域は25~32%。
3 本技術を搭載した開発機を用いて、降雨後や朝露が付着した穀粒水分25%以上の高水分水稲を収穫した場合、車速制御なしと比較して穀粒損失を約3分の1まで低減できた。この結果等をもとに作業可能面積をシミュレーションしたところ、車速制御を利用することで、これまで収穫作業が行われていなかった朝夕の時間帯にも作業が可能となるため、1日当たりの作業時間を増やすことができ、朝夕3時間ずつ作業時間を拡大した場合、1日当たりの作業面積は約3割拡大することがわかった。
ただし、穀粒水分が32%を超えるような過度に高い条件下では、収穫作業を行わないよう留意する必要がある。









