インド:世界最大の米輸出国/農林政策研究所・6年度カントリーレポートから

農林水産政策研究所はこのほど、「令和6年度カントリーレポート:タイ、ベトナム、中国、インド」(2025年3月)を取りまとめて公表した。ここではその中から「インド―近年における米の輸出動向―」の概要をみる。インドは1960年代後半まで度重なる大飢饉を経験し、多数の犠牲者を出してきたことから、食料の自給が政府の最大の目標であった。そして、化学肥料、電力、灌漑への農業投入財補助金が効果を示し、1970年代後半には「緑の革命」に成功。穀物の自給を達成した。その後も価格政策や投入財政策などを背景に米や小麦の増産が続き、2010年代半ば以降は世界一の米輸出国となった。政府の価格・補助政策の継続や技術革新が支えとなり、2010年代半ば以降は安定した生産を維持。特に米は世界生産量の27%を占め、2024/25年の生産量は1億4500万トンと推計される。輸出規制の一時的実施により、2023/24年の輸出量は前年比約29%減の1443万トンとなったが、2024年秋には輸出規制が解除され、2024/25年の輸出量は同707万トン増の2150万トンに回復、世界輸出の37%を占める見通しである。米に次ぐ基幹作物である小麦の2024/25年の生産量は、1億1329万トンを見込む。気候の影響で変動があるものの、自給率は101%。2022年の輸出規制以降、国内供給重視の姿勢が続く。トウモロコシは家禽用飼料・工業用需要が増し、生産・消費とも堅調に拡大している。畜産では、ミルク生産が2億1170万トンと世界最大級で、牛乳と水牛乳がほぼ半々。水牛肉および牛肉も輸出が活発で、457万トンの生産のうち158万トンが輸出に回り、ブラジル、オーストラリアに次ぐ世界3位の牛肉輸出国となっている。2023/24年の貿易収支等をみると、輸出は4371億ドル、輸入は6782億ドルで、貿易赤字は2411億ドル。主要輸出地域は北米(19・8%)、EU(17・4%)、西アジア(12・9%)となり、アフリカ向けも増加傾向にある。輸出先上位は米国、UAE、オランダ、中国、シンガポールで、上位10カ国で総輸出額の51%を占める。輸出品は石油製品、機械・宝飾品、医薬品が中心。一方、輸入元国は中国(15・0%)が首位で、原油、金・銀、電子部品などの工業品が多い。また近年、ロシアからの原油輸入が急増しており、国際情勢が取引構造に影響を与えている。インドの米の輸出総量をみると、アジア諸国に加え、ベナン、セネガルなどアフリカ諸国が多い。2023/24年にはサウジアラビア、イラク、イランなど西アジア向けが増加した。一方、輸出規制の影響で、2023/24年の輸出総量は前年・前々年よりも大幅に減少している。多品目の米を輸出しているのも特徴で、主に(1)バスマティ米(2)パーボイルド米(3)一般米(4)砕米に分類される。(1)バスマティ米:長粒で香り高く高級品とされるバスマティ米は、サウジアラビア、イラン、イラク、UAEなど西アジア諸国向けが約7割を占める。2021/22年394万トンから2023/24年524万トンへ増加し、米輸出全体の約3分の1に拡大。中東の富裕層市場に支えられ、価格競争力も維持している。(2)パーボイルド米:籾の状態で蒸煮・乾燥する加工米で、砕けにくく長期保存が可能。2021/22年743万トン、2023/24年757万トンと安定推移し、全輸出の約半分を占める。主な輸出先はバングラデシュと、ベナン、ギニア、トーゴ、コートジボワールなど西アフリカ諸国で、アフリカの主食用として需要が拡大している。(3)一般米:バスマティ米とパーボイルド米を除く精米で、2021/22年522万トンから2023/24年236万トンへ半減。輸出規制の影響が顕著である。主な輸出先はケニア、モザンビーク、マダガスカルなど東アフリカ諸国で、アジアではネパール、ベトナム、マレーシア向けが多い。地域によって求められる米の種類に差があることが特徴。(4)砕米:飼料やエタノール用、または低価格食用として利用される。2021/22年389万トンから2023/24年55万トンに激減。2022年の輸出禁止措置の影響が続いている。以前は中国が最大の輸出先(全体の4割超)だったが、近年はセネガル、ガンビア、コートジボワールなど西アフリカ向けが中心となった。インドの米輸出は、「高付加価値の香り米=西アジア」「保存性・低価格重視の一般米=アフリカ」という明確な地域分化がみられる。西アジアの富裕層需要と、アフリカの人口増・所得上昇による主食需要の双方を支えに輸出が拡大してきた。一方、政府の輸出規制や国際価格の変動が大きなリスク要因であり、各国の需要動向や外交関係が輸出構造に直結する。今後は、主要輸出先であるサウジアラビア、ベナン、ケニア、セネガルなどとの2国間関係や、規制政策の影響分析が重要とされる。インドの米輸出は、単なる農産物貿易を超え、食料安全保障や国際関係の一要素として注視すべき段階に入っている。









