エリートツリー輩出へ前進/森林総研・林木育種センターの取り組み(上)

みどりの食料システム戦略は、森林・林業分野の目標として、山に植栽する種苗にエリートツリーが占める割合を2030年までに3割、2050年までに9割以上に拡大することに加え、2040年までに高層木造の技術の確立を目指すとともに、木材による炭素貯蔵の最大化を図ることを掲げている。林木育種センターに今年、大型の木製ハウスが完成、より本格的な増産体系構築へと舵を切りつつある。そこで現在のエリートツリーについての具体的な取り組みなどを林木育種センター(茨城県日立市十王町)の育種部育種第二課長の田村明氏と木製ハウスの管理を担う同部原種課長の坂本庄生氏に話を聞いた。
エリートツリーとは、成長や材質など性質の優れた精英樹同士の人工交配で得られた個体の中から、選抜を行い改良された第2世代以降の精英樹。成長性に優れることから、下刈り作業終了の目安となる樹高に到達する期間がこれまでの種苗より1~2年程度短縮され、初期保育の経費節約への貢献が期待されている。
森林総合研究所の林木育種センターでは、2030年目標の達成に向け、このエリートツリーに関する品種開発や原種苗木増産施設の整備を進めるとともに、都道府県等が進める採種園や採穂園の整備への技術指導などを実施する。前回、2022年の取材時、東京のベンチャー企業の持つCO2局所施用をベースにした環境制御技術を原木苗木増産施設に導入し、増殖体系作りの準備を進めていた。今年、同じベンチャー企業によって作られた大型の木製ハウスが完成し、本格的な増産体系構築へ向け、動き始めた。
全国の山から成長が良い木を第1世代として選抜し、その遺伝的な優良性を検定林で確認後、優良個体同士を交配して第2世代が作られる。第2世代の中でも成長、材質が良く、花粉が少ない個体が「エリートツリー」として選抜される。エリートツリーの中でも特に優れた個体を「特定母樹」として林野庁に申請。農林水産大臣に認められると、その苗木が国の方針として山に植えられる。その新たな苗木の新品種の開発と原種苗の増産を同センターが担っている。「関東地域では、第2世代のエリートツリーの中から、スギ73系統、ヒノキ21系統、カラマツ72系統が特定母樹として指定されている。現在、第2世代の苗木が中心に植えられているが、関東では既に第4世代のスギ苗木を作出し、山に植え始めている。これは全国で最も早い取り組みとなっている」と田村課長は話す。
エリートツリーは「材質に特段の欠点がないもの」が基準だが、特定母樹は「材質が平均以上」と一段階上の基準が求められる。特に関東では首都圏を抱えるため、花粉量がさらに少ないものが選ばれている。少花粉スギは、林野庁の定義で従来品に比べ花粉飛散量が1%以下のもの。評価は、1本当たり数十万個の雄花の数を直接数えることは困難なため、人間の目で木全体や枝単位の雄花の付き方を5段階の総合指数で評価し、選抜する。今年3月、特定母樹の中でも特に雄花が少ない「少花粉品種」として1系統が登録された。これは、従来品比1%以下の花粉飛散量という厳しい基準をクリアしたものである。一方で、遺伝的多様性を確保するため、採種園ではその木の周囲に8種類の違う系統の木が必要。最低でも9系統以上のクローンで構成する必要がある。現在1系統しか開発できていないため、残り8系統以上の開発が急務。社会的なニーズも高い少花粉スギは、雄花が咲くが花粉の量が少ない品種。
一方、無花粉スギは雄花は作るが、中に花粉がない品種であり、メカニズムが異なるため別の研究開発路線となる。関東ではこれまで3品種を開発している。2024年には静岡大学や神奈川県、東京都などと協力し、新たに4品種を開発した。
エリートツリーや特定母樹の新品種開発には時間がかかる。特に、5つの異なる環境で調査する必要が国の基準で定められており、同じ場所でも年が違えば別環境とみなされるものの、同じ場所で開発すれば最低でも5年を要する。「開発期間を短縮するため、検定林でも調査を行う。7月頃の暑い時期に、約20キロのジベレリン水溶液を担いで山に入り、雄花を強制的に着花させる処理を行うなど、多大な労力をかけている」と田村課長はいう。やれる限りの努力をしても、自然相手のことである以上、すぐに結果に結びつくとは限らず、なるべく期待にこたえられるよう努力しているのが現状のようだ。
また、無花粉スギと少花粉スギ品種を交配させることも構想の段階ながら検討中である。









