秋田農家ルポ:未経験若者集団が60ha(Lux代表取締役・畑山千弥氏)/秋田県農機ショー特集

ヤンマーアグリジャパン(株)東北支社湯沢支店(湯沢市深堀字鎌切61の1)の冨谷秀樹主任の案内で訪れたのは、(株)やまだアグリサービス(湯沢市字中屋敷)。同社は2004年に創業し、山田地区で約300戸の農家から210ヘクタールの農地を借り受け、米や大豆の生産・販売とともに、作業請負も行っている農業生産組合法人だ。
今回、同社の取締役を務め、昨年、作業請負会社の(株)Luxを立ち上げて、平均年齢24歳のほぼ農業未経験の若者らと共に地域の作業受託をする畑山千弥氏(25歳)から話を聞いた。
畑山氏は高校卒業後、やりたいことがみつからない中、「バイトしてみれば」と誘われ、親族の柴田為英氏が社長を務める同社へアルバイトとして入社した。「農業は大嫌いだった。親からも『農業だけはやるな』と刷り込まれて育った。強い偏見があった」と話す。しかし、実際にやってみると作物の土壌の違いによる生育差など「理科の実験のよう」で面白く、次第にのめり込んでいく。「農業は若者が極端に少ない。それでも産業としてやっていかなきゃいけない。先に一歩踏む出せば、追随してくる人もいるはず」といつしか気持ちも変化していった。柴田氏の勧めもあり、その後、東京農業大学へと進学。2024年3月に卒業し、秋田へと戻り、就農した。「就農を決めた時、親と大喧嘩した。親には兼業農家としての大変さや社会的にやりがい搾取されているという実感があったようだ」と話す。
やまだアグリサービスは、水稲50ヘクタール、大豆120ヘクタール、委託12ヘクタール、酒米8ヘクタールを栽培する。山田地区の地域の担い手としての側面も強い。畑山氏は関連企業として昨年4月に(株)Luxを設立。同社はやまだアグリサービスの作業受託が主たる業務だ。創設のきっかけを畑山氏はこう話す。「農業の一番の問題は地域に働き手がいないこと。土地は持っているのに働く人がいない。農地があるのは地方の村々。外部からは入りづらいから、伝手を辿るのが手っ取り早い。後継者がいなくても現場で働く人がいれば農業は続く」と。現在同社の従業員は畑山氏含め4名。元は美容師や保険のセールスなどで、22~27歳の農業未経験者だ。失敗成功を繰り返し、試行錯誤しながら、受託している60ヘクタールを管理している。そのほとんどは中山間地域だ。「大変なところだから、皆困っている。嫌なところしか預けない。我々は素人集団だから、知識も経験もないが固定観念もない。そこは無知の強み」と前向きだ。
Luxは機械を所有していないため、やまだアグリサービスの機械を使い作業にあたる。そのほとんどがヤンマー製だ。トラクタは65~115PSまで9台、コンバインは4条刈が2台、5条、6条各1台、汎用1台の計5台だ。ヤンマーの機械の良さはフィーリングで使えるところだと言う。「こうすればこうなるだろうと感覚でできるところ。直観的で使いやすい」。共有使用する中で、どうしても使う機械がバッティングすることもある。「現場が働きやすくないと長続きしない。現場ありきの産業なので。会社が8時5時で使うなら、こちらは朝5時から8時と夕方5時から7時で使うとか、働く時間をずらす。土日祝を休みにするだけが働き方改革ではないと思う」と本質的なことにも切り込む。
畑山氏に冨谷主任がどんな存在なのかを尋ねてみた。「なんでも聞けるお兄ちゃん的な存在」だと言う。富谷主任も「なんでも聞いてください。勉強してます。じゃないとついて行くのは厳しい」と応じた。
冨谷主任は高校卒業2週間前に父親を亡くし、男手は家族に冨谷主任しかおらず、次の年から米作りをする必要に迫られた。以来、約30年近く農業にも取り組んできた。「だからこそ、肥料が足りない、病気がついたなど、時にわかることもある」と話す。
今度は冨谷主任からみた畑山氏について。「可能性の塊。伸びしろしかない。暴走気味なところはある。でも、それが原動力になっている。これから10年、20年とやっていった時にどうなるのか楽しみ。だからこそ、最大限のバックアップをしたい。彼のすごいところはボコボコにやられてもケロっとしているところ」と話す。
畑山氏に展望を聞くと、10年以内に会社を上場させたいと言う。「農業で上場する会社は少ない。農業の社会的意義が見出せたらなと。まずはそこ。それもあくまで手段の一つ。農業に足りないのはカッコ良さなどのプラスイメージ。失敗を恐れず、まずは社会的なインパクトを与えたい」と意気込む。
農業の現状に対しても思うことは多い。「農業に必要なことは世代交代。大規模化、スマート農業の前に世代交代。高齢世代のやり方からの脱却。最先端技術が伸びるのは今までになくて面白いから。人は感情の生き物だから、多くの人は感情で面白いと思った方に動くんですよ」と力説する。
楽しみは、友人の子供の面倒を見ることだ。「何も考えていない無邪気なところに癒されたのかな。自分に素直になる心が足りないかもしれないと3歳児と遊んでそう思った」。あとは散歩。 将来は、子供達に農業体験させることも考えている。「無肥料、無農薬、除草剤なしでやっている畑があって、そこを農業のイベント会場にしたい。手間が掛かるから」。その意味を問うと、「手間が掛かった方が子供には面白いはず。無農薬が健康に良いからとかではなく。非効率を楽しむ。生きる力をつけるために農業はうってつけだと思う。それに孫が来ればその家族も来てくれる」。 これに反応した冨谷主任が話し始める。「今年、2箇所にニンジンを植えた。片方は一生懸命に草も取って世話をした。もう片方はほったらかし。大きく育ったのは、ほったらかしの方。びっくりした」。それを受けて畑山氏は「農家のほとんどは農薬肥料がないと栽培できないと思っている。その固定観念を壊したい。冨谷さんが言った通り実際にやってみると違ってくる。試しに農薬の回数を3回から2回に減らす。肥料を2種類使うんじゃなくて、1種類にしてみる。それで経費も浮く。これしか方法がないっていう固定観念を変えていきたいんですよね」。
熱を帯びた話は矢継ぎ早に次の話題へと変わっていく。「あとは目標年収、目指せ500万。今年は米価があがったけど、農家はどうしても年収が低いイメージがある。次のステップは四桁。ざっくり一人で20町歩やれば年収1000万円。60町歩だったら3人で20町歩ずつ預けてオーナーになってもらう。働き方も自分で決めて。それが一番経験になるし、楽しいと思う」。
来年は反当たり1000万を目指すと公言する。「1反当たり1000万の売上げを出すにはどうしたらいいか考えている。農薬肥料を使わず、付加価値をあげ、イベントにする。販売はキロ単価を高めにして、取りに来てもらう。天日干しもやりたい」と次々と夢や目標が出てくる。その言葉には常に情熱と勢いが感じられる。「とにかく農業をやってる人がモテるっていうところを見せたい。だから上場。実現するには株主になってくれる賛同者を2000人集める必要がある。そこが最初のゴール」。その言葉を聞き冨谷主任が静かに発破をかける。「ゴールじゃないでしょ。通過点。たったの2000人だよ」。冨谷主任も畑山氏の情熱に巻き込まれた賛同者だ。









