秋田農家ルポ:村唯一の雇用口に(小田原紳悟氏・荻山千春氏)/秋田県農機ショー特集

(株)秋田クボタこまち支店(湯沢市岩崎字四条222)の金子一臣主事の同行で湯沢市の東に位置する雄勝郡東成瀬村を訪ねた。ハウスの前に車を止めると小田原紳悟さん(35歳)が待っていてくださり、ほどなく荻山千春さん(29歳)がやってきた。小雨が降っており、ハウスの中で取材させていただいた。
2人は村で唯一キュウリを栽培している個人農家。この地域ではトマト農家が約20軒と最も多く、その他には花きの栽培なども盛ん。稲作は主に法人が担っている。
荻山さんは埼玉県東松山市の出身。小田原さんは東成瀬村の出身だ。荻山さんは、小田原さんの実家である東成瀬村に6年前に移住してきた。当初は農業をするつもりはなかったという。「生活費を稼ぐために横手や湯沢まで入れて、指定作物になっている様々な有名どころの農家を片っ端からアルバイトしていった。最後にキュウリに出会って、キュウリ栽培に面白さを見出し、自ら手がけたいと思うようになった」そうだ。
埼玉で働いていた時に、協力会社の社員だった小田原さんと出会って仲良くなり、付き合うようになった。「ここに連れてきてもらった時に、なんていい所なんだと思った。すっかり気に入ってしまった」と荻山さんは振り返る。その後の流れはこうだ。まず、小田原さんが地元の農業法人に就職して東成瀬村へと戻る。荻山さんがこれはチャンスとばかりに移住し、バイトに明け暮れ、農業に魅了される。小田原さんが法人をやめる。キュウリの栽培にピンときていた荻山さんから一緒にキュウリ農家として独立しようと持ちかける。そして、現在は二人三脚で農園を経営している。
独立1年目は地区の平均収量しか達成できなかった。納得できず、埼玉にある種苗会社の研修育成会の研修制度を利用し、2人でその年の秋から翌春まで研修に参加した。知識を得たことで、収量が向上。3年目の昨年にはJAこまちのキュウリ部会で優秀賞を受賞するまでになった。
2年目までは露地栽培で営農し、3年目にハウス栽培も導入した。現在、ハウス4棟(1・2反)と露地(3畝)でキュウリを栽培する。年内にはさらにハウスを2棟(6畝分)増設予定で、来年から稼働させる。
今年の収穫は11月15日頃まで行う予定。今年の出来具合を聞くと荻山さんは「本来穫れるはずの夏は猛暑で秀品の収穫が難しかった。木も暑さで弱っていた」と話す。収量も伸び悩んでいたが、お盆過ぎてからは回復したと話し、安堵の表情を浮かべていた。来年も補助金を申請しており、規模拡大を計画している。冬にはセリ栽培も検討しているが、豪雪地帯のため、すでに考え始めて2年ほど保留している状態だ。
荻山さんは現状を「すごく充実している」と話す。「収穫量の目標設定から管理方法まで、すべてを自分たちで考えて決定できる。目標を何トンって決めて、そのためにどうするか考える。すべてが自己責任だけど、その責任感もちょうど良い」と語る。
トラクタ(24PS)をはじめ、農業機械はすべて秋田クボタから購入する。金子主事について問うと「相談しやすいし早い。すごい助かるよね」と頷き合った。「防除機や静電ノズルのことなど、知らなかったことを全部提案してもらった。見積も一番早いです」とも。金子主事のレスポンスの速さと提案力を高く評価し、絶大な信頼を寄せていることが見て取れた。小田原さんが以前勤めていた農業法人を金子主事が担当しており、その働きぶりを見染めたことがきっかけだった。金子主事も2人のことを「もうここらのホープですよね。野菜の値段もお米の値段も変わってきている世の中で、大規模化して家でもポーンと建てられるんじゃないかなあ」と期待しながら、そのサポートを惜しまない。ハウスには自動潅水システムのゼロアグリを入れている。現在秋田クボタに2号機の増設を依頼している。ハウス増築を見越して水量を増強したシステムを追加する。
今の悩みは、他の産地に対抗できる技術をいかにして得ていくか。荻山さんは「気候もあるけど、東北の他の産地に比べて、ここは反収が低い。その差をどうにか埋めていきたい」と話す。
また、秋田県全体で人手不足が課題とも。そんな中、ナルテックという県の移住支援事業会社を通じて、農業に興味を持つ26歳の県外出身者を雇い、収穫作業で大きな助けとなった。就農希望者だそうだ。類は友を呼ぶといったところか。
小田原さんは「キュウリは手をかければかけるだけ結果として応えてくれる作物。やっていて楽しい」と話す。荻山さんも「2週間という早いサイクルで成果が見えるのが良い」と補足し、「良い仕事に就いたなあ」と笑った。
キュウリ栽培は知識ゼロから始めたわけだが、埼玉の研修先が気にかけてくれ、最盛期には月に1回ほど人を派遣してフォローしてくれるなど、手厚いサポートも受ける。若い農業者を大事にしたい思いはあるのだろうが、2人が真剣に楽しそうに農業に向き合っているからのサポートでもあろう。また、多額の補助金を利用しているため、その分、数字で結果を出さなければならないという強い責任感も持ち合わせている。その真剣さが周囲のサポートを呼び込むのではないだろうか。荻山さんは「村役場も我々末端の農家までよく見てくれている」と話す。それはあなた方だからじゃないですか、と思ったが黙って頷いておいた。
癒しは飼っている秋田犬の「瓜丸」。昨年11月から飼い始めた。2人は「お世話にしている時が幸せ」と頬を緩ませる。
今後の目標は、借りている土地でキュウリの栽培を広げ、道路の端まで拡大させること、と小田原さんは述べた。その広さは9棟で約3反歩ほどになる。「個人農家ではなく、会社みたいにしたい、ってそういうこと?」と荻山さんが聞くと小田原さんは「まずはいっぱいやりたい。キリがいいんで。見た目もいいし」と答えた。それを受けて、荻山さんは「規模も大事ですけど、私はできれば、この村には雇用がないので、年間通して農業をする、この村唯一の雇用口になれたらいいなと思っている。冬場のセリ栽培もそのため。農業のアルバイトで、時期が終わったらバイバイではなく、若い子たちも農業の会社に就職するってアリだなって思えるような経営をしていきたい。最終的には、こんな雪のある地域で年間通してやっていけるんだって思ってもらえれば、それが勝ちかなって思いますね」と語った。小田原さんが間髪入れず「それ。それが言いたかった」と付け足して笑った。









