安全作業実現に邁進する林災防/チェンソー特集

安心・安全な林業の現場を実現していく上で対策は欠かせない。労働力の維持・確保を進めるためにも重要性を増してきている。林業・木材製造業労働災害防止協会(中崎和久会長・東京都港区芝5の35の2)は、事故防止の観点から安全対策に向けた啓発・セミナーなど様々な取り組みを進めている。そこで、今回は「労働災害ゼロ」を目指す林災防の活動を取材。現在力を入れて進めている安全対策をはじめ、高性能林業機械の普及拡大に伴う取り組みなどについて、教育支援課長の庭山佳宏氏に話を聞いた。
林災防は1964年9月1日に労働災害防止団体法に基づいて設立した特別民間法人。林材業の事業主が労働者の協力のもとに、安全で快適に働ける職場をつくるための自主的な労働災害防止活動を促進し、技術的な指導と援助をすることを目的として活動している。
まず林業労働災害の現状について確認したい。
厚生労働省がまとめた労働者死傷病報告によると、林業における労働災害発生人数は1999年は3191人(うち死亡者数は71人)。2024年は1167人(うち死亡者数は31人)となっている。高性能林業機械の普及が全国的に進んでおり、長期的に見ると、死傷者数は減少傾向。ここ数年は横ばいで推移。
しかし、1年間の労働者1000人当たりに発生した死傷者数の割合を示す「死傷年千人率」について林業は、2024年は23・3人と全産業計の約10倍、次いで木材製造業が11・4人でこれも全産業計の約5倍だ。作業別に分析すると、伐木作業やチェンソー作業に起因する事故が多いのが特徴。
林災防は「林業・木材製造業労働災害防止規程」(災防規定)を制定している。労働災害防止団体法に基づき、会員が作業の実施方法等について講ずべき事項を具体的に定めたもので、「会員は労働災害防止規程を守らなければならない」と規定、順守の徹底を推進している。
そして2023年に、最近の労働安全衛生関係法令や関係ガイドラインの新設・改正、近年の労働災害の態様等を踏まえ、災防規定の内容を大幅に変更した。伐木等作業の安全対策に係る労働安全衛生規則等の改正により、各種の安全措置、伐木等作業に係る特別教育を見直し、チェンソーを用いる伐木等作業等で新たに加えることが必要な事項を災防規程に反映させ、次の通り安全対策を強化した。
▽つる絡み及び裂けやすい木の伐倒作業における激突され災害▽集塵サイロ等作業におけるおが屑等に埋没することによる災害▽テーブル式昇降装置におけるはさまれ災害▽走行集材機械の走行に係る災害等―について、再発防止のための規定の新設・改正による対策を充実。
全国的に高性能林業機械の導入が増えている一方で、林業機械に起因する事故が増えているのが現状だ。2024年は、集運材作業中における死亡事故が7件発生している。木材グラップル機の運転席から身を乗り出した際に右足が操作レバーに当たってブームのシリンダーが降下して挟まれた事例や、フェラーバンチャで下げ荷集材中に他の伐倒木が滑り落ちて運転席に激突した事例などがある。
前者では運転していた木材グラップル機のエンジンを止めずに枝を取り除こうとして誤操作が生じたことや、事前調査や作業計画の作成が行われていなかったことなどが原因だった。
後者は伐倒木が滑落し、激突するおそれのある場所で車両系木材伐出機械作業を行っていたことが原因。いずれも対策を徹底していれば防げたはずだ。
林災防の林業・木材製造業労働災害防止計画(5カ年計画)では、車両系木材伐出機械作業による労働災害防止のための措置を実施する会員事業場の割合を2027年までに50%以上にすることを目標に掲げた。車両系木材伐出機械とは伐木等機械、走行集材機械及び架線集材機械のことである。
車両系木材伐出機械作業による労働災害防止のための措置を実施する会員事業場とは、(1)事前調査の実施と作業計画の作成(2)リスクアセスメント等の実施(3)作業指揮者の配置(4)主たる用途以外の使用の禁止(5)接触の防止及び立入禁止措置の実施(6)構造上定められた能力を超えた使用の禁止(7)作業道の幅員の確保・制限勾配の設定・車回しの設置等の設計上の対策(8)装備されたシートベルトの着用の徹底―のうち3つ以上の事項に取り組んでいる同事業場のことを指す。
林業全体の死亡者数は長期的には減少傾向だが、車両系木材伐出機械作業による死亡災害は増加している。事故防止のために安全教育の実施と安全作業の徹底が必要だ。
林災防では、厚生労働省補助事業として「実践的リスクアセスメント導入のための集団指導会」を47都道府県で無料で開催している。林材業における労働災害の未然防止の一環として2015年度からスタートした演習を主体とした実践的な集団指導会で、林業及び木材製造業に携わる人を対象にしている。受講者には修了証や証明証を交付している。
また、厚生労働省の補助事業として、チェンソー取扱い労働者を対象に、健康維持管理のための「林業巡回特殊健康診断」を実施。チェンソー取扱労働者の健康維持・管理並びに振動障害の予防・早期発見に取り組んでいる。厚生労働省の通達では、チェンソーを使用する労働者に対して雇い入れの際、当該業務への配置換えの際、及び6カ月以内ごとに1回、定期的に特殊健康診断を行うこととしている。
しかし、林業労働者については、林業に特有の事情などから特殊健康診断の定着がなかなか進んでいない現状がある。多くの人に受診してもらい、労働者の健康維持、管理、安心して働ける職場環境づくりに役立てる狙いがある。
今年6月から「職場における熱中症対策の強化」として、熱中症を生ずる恐れのある作業をする際に、熱中症の恐れがある作業者の(1)早期発見のための体制整備(2)重篤化を防止するための措置の実施手順の作成(3)関係作業者への周知―が義務化された。林業では夏場の下刈りなど熱中症にかかりやすい環境下での作業が多い。林災防は熱中症対策のポスターを作成、会員に配布し、周知を図っている。
林災防の教育支援課長の庭山佳宏氏は「勘や経験に頼っているケースが見られ、現場教育をおろそかにしている事業者が少なくないのが現状だ。シートベルトやヘルメットの着用、事前の安全確認の徹底など基本的なことを守っていくことで多くの事故は防げる。事故ゼロは決して不可能な目標ではない。そのために安全啓発を徹底していく」と話した。









