稲作問題の本質を探る/浦秀俊氏緊急寄稿

米価格の高騰が昨年より大きな問題となっている。生産量の不足、流通での滞留、販売業者や消費者の買い溜め等、種々の原因が議論されているが本質的な原因を探るべきである。そこで日本で販売されている短粒米(ジャポニカ種)に近い中粒種(カルローズ等)を年間168.5万t生産するカリフォルニア州に着目し、その農法の違いや経営状況を米国農務省(USDA)の公表データを基に分析した。【カリフォルニア州の稲作】米は麦、大豆やコーンといった穀類として扱われる。1920年代頃に南部州(アーカンソーやルイジアナ他)で長粒米の商業稲作が始まった。カリフォルニア州では中粒米を主体に作付けが拡大してきた。2022年のUSDA農業センサスによれば、全米経営体数はわずか3824で、収穫面積が92万ha(日本:約130万ha)、収穫量が777万tと日本とほぼ同量で大半が長粒米。2025年1月の調査報告書によれば、日本米に近い短粒米(ジャポニカ種)は全米の98%(12.1万t)、中粒米(カルローズ等)は65.9%(183.7万t)がカリフォルニア州で収穫されている。稲の栽培には粘土質の土壌と大量の灌漑水が必要であり、サクラメント川流域の7郡(サクラメント、シュッター、ユバ、コルサ、グレン、ビュート、サンウォキン)に集中。耕起はプラウ、砕土はディスクを使うため200HP以上のブルドーザーやクローラトラクタが牽引に使われる。平均収穫面積は137haで運営費はギリギリカバーできているが、償却費や固定費を加えた全算入生産費では平均耕作面積以下の経営体だと赤字経営である。【日米の稲作農家の比較(2023年産米)】ミシシッピー川流域の稲作面積は全米の約85%を占めるが、単価の低い長粒米が主流でしかも経営規模が平均240haと大きいので、中粒米が主流のカリフォルニア州の2023年産米データ(カリフォルニア NASS Crop Production 2024 Summary(January 2025))を使用した。農薬と地代以外の多くの費目でカリフォルニアが日本より安いことがわかる。特に種籾・播種費は日本の57%、肥料は62%、総労働費は25%とかなり安い。カリフォルニア州の時間賃金は21.50ドルと農林水産省の1500円より高いにもかかわらず労働費が少ないのは高速作業の効果である。日本は、米国人からカタツムリに例えられるロータリー耕うん、育苗や田植え作業が労働時間を延ばし労働費を押し上げている。日本の個別経営体のデータも参考に並べたが、比較にならない程の金額であり、やはりこれまでのやり方に何か問題があると考えざるを得ない。米国では採算が成り立たない規模の稲作農家は年々自然淘汰され、2022年現在で僅か3824の経営体(日本‥57万)に減少している。日本では3ha以下の稲作農家の大半が農業収入で赤字となっているが、農家としてまだ存続しているのは農外収入のおかげである。戦後の農地解放で小作農民を小規模地主に仕立て上げ、長年にわたって支援と保護を続けてきた政治の弊害であることは否めない。表2は表1の数値を用いて損益計算したもので、137haの経営体でも全算入生産費6万9509円を出荷額6万8813円でカバーできず696円の赤字である。これに対して日本の組織法人経営体では出荷額が10a当たり10万9501円(1万3038円/60kg)と高額なおかげで、全算入生産費が9万9462円(1.6倍)でも1万39円(9.6%)の利益が出ている。さらに「経営所得安定対策交付金」3414円が加算されるので、補助金を含む農業所得は10a当たり1万3453円となり、出荷額に対する利益率は12.3%になる。カリフォルニアの反収は952kg(組織法人経営体:503kg)で日本の2倍近く、60kg当たりの出荷金額は4356円(組織法人経営体‥1万3038円)と日本の3分の1であり如何に日本の値が高く付けられているかがわかる。これは個人経営体56万戸の赤字体質を補うためとしか考えられない。筆者が2000年に住んでいたジョージア州マリエッタの日本食材店のカリフォルニア産中粒米(錦)の今年の小売値が5ポンド(2.3kg)13.99ドル、コシヒカリが4.4ポンド(2kg)16.99ドル、コシヒカリ系プレミアム米(TAMAKI GOLD)が4.4ポンド19.99ドルで販売されており、農家出荷額が日本の30%であることを考えると流通マージンがかなり多いことがわかる。カリフォルニア米の食味は粘り気が少なくさっぱりした食感で、おにぎりや寿しに適した日本晴れに近い味だった記憶がある。【進化する米国の直播方式】稲の反収が高く、生産性が高いのは多収穫品種と高速農法によるところが大きく、生産性を上げるため品種改良と直播技術の改善を続けてきたからである。カリフォルニア州での聞き取り調査(2018年)で次の点がわかった。今まではディスクプラウをブルドーザーで牽引していたが、近年ゴムクローラトラクタとチゼルプラウ(不耕起農法)に置き換わりつつある。チゼルプラウに取り付けたガス圧入機で肥料を地中に圧入する省エネ農法である。稲の栽培に適した粘土質の田では水分が多く機械が入り難いため、サクラメント川流域の米作地帯では、グレンドリル(条播機)を用いた乾田直播から航空機による播種や薬剤散布となり、主流だ。稲が列状に根付くよう均平整地後にK型ローラーで152mm幅の溝をつけ、水を張った後に発芽籾を撒き水抜きすれば籾が溝の底に列状に集まる。米国の土地分割は2マイル(3.2km)四方が一般的で正方形の区画を4、8、16等分し長方形区画にしている。往復飛行による播種では長方形区画(600~800m×200m)を横に並べた区画配置が効率的なため多い。散布幅15m、時速160kmで作業すれば旋回と種籾補給時間を入れても約1時間で100~120haの作業ができる。航空散布用の小型機用滑走路が水田地帯に常設されている。【課題解決に向けて】国内稲作を守るためには、米の輸入阻止でなく安く作る米国のアイデアを輸入し生産費を下げ国際競争力のある米を生産することである。近代稲作の先進国、米国を手本に全ての国民に公平・公正な「生産費(出荷単価)の低減」及び「プロ農家支援」対策が必要である。農業構造改善に関して“規模拡大”とか“増産”を唱えるが、損益分岐点が極端に高い現状では赤字額をさらに増やすことになりかねない。本質的な問題である低い限界利益率を上げるためには(1)高収量の稲を開発することと(2)労働生産性を上げることに尽きる。高速作業で労働時間を短くすれば時間当たりの相対賃金が上がり労働生産性は上がる。時間を掛けて安い時間給で働くのではなく、短い時間で多くのアウトプットを得て高い時間給を得るやり方が米国の「高速耕うん+航空播種」である。カリフォルニアは日本の10倍の速度で作業をするがそれでも経営規模が小さいと赤字経営になっている現状を踏まえ、面積規模に見合った支援が必要である。米国の支援策の柱はあくまでも平年収穫量に基づく基準出荷額に対して、実出荷額が天災や市場異変で大きく下がった場合にその差額を補填するもので、農家の経常赤字を直接補償するものではない。米国の連邦支給は種々あるが小規模の副業的農家の恒常的な赤字改善を目的としていない点で日本と違い国民に平等で公平な施策と言える。日本も米国を見習い区画統合や面積拡大を進め出荷単価を米国並みに下げる努力をしている稲作事業者をもっと支援すべきである。中山間地の土地保全型の小規模個人経営体に対しては「農家」としての補助でなく「自然環境・国土保全」に対する貢献度に応じた礼金として支払うのが望ましい。アメリカのカリフォルニア大学のデービス校では日本の3割から5割低い生産コストをさらに下げる研究を続けている。日本でも埼玉の農業法人がグレンドリルを用いた節水直播方式で75円/kgを目指しているが、「食料・農業・農村基本計画」での“水田作の技術体系の将来像”では「ドローンを用いた播種を2040年に実現」と15年も先に考えている。米価低減が喫緊の課題であるにも拘わらずそのスピード感覚の鈍さに呆れる。せめて5年先の2030年に今のアメリカ並み(72.6円/kg)の生産費まで下げる施策がほしい。繰り返しとなるが、無人運転や自動運転等の機械費をさらに上げるスマート化より、機械費を上げずに少時間作業につながる農法と農業機械の研究開発に予算を割くべきである。









