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令和7年6月16日発行 第3555号 掲載

データ駆動型の施設園芸へ/農業情報学会が年次大会

 一般社団法人農業情報学会(星岳彦会長)は5月24、25の両日、京都市左京区の京都大学農学部総合館ならびにオンラインにて、2025年度年次大会を開催した。両日にわたり、農学と情報工学に関する学術的な最新の研究成果が発信されるとともに、活発な議論や意見交換が行われた。研究発表は部会ごとに行われ、情報工学部会、情報利用・普及部会、人工知能部会、環境情報部会、施設生産情報部会、生産・経営情報部会、リモートセンシング部会、生物資源工学部会、フードシステム部会など、幅広い内容における研究が報告された。
 大会では、両日にわたり研究発表が行われたほか、初日の24日には学会会員総会、学会賞授賞式並びに受賞講演、公開シンポジウム「果樹園におけるスマート農薬散布への取り組みと課題」、ポスター展示及びポスター発表、情報交換会が実施された。翌25日には「データ駆動型施設園芸の進化と展望」「アグリテックを進化させる農業デジタルツインの可能性」の2件のオーガナイズドセッションが開催され、盛況であった。
 このうち、25日午前に開催されたオーガナイズドセッション「データ駆動型施設園芸の進化と展望」の一部概要をみる。
 冒頭、趣旨説明を行った岡安崇史氏(九州大学)は、近年、施設園芸の分野ではIoTやAI、ロボットなどの導入が試みられており、データに基づく栽培管理技術の実現に対する関心が集まっていることを踏まえ、今回のオーガナイズドセッションでは、施設園芸におけるデータ計測およびその利用に関する最新動向や実践事例の紹介とその展望について研究発表と総合討論を行い、持続可能な施設園芸の未来について議論を深める等と語った。その中の1つのキーワードとして、昨年誕生から20周年を迎えたUECS(ユビキタス環境制御システム)を紹介。UECSは日本で開発された施設生産のための自律分散型制御システムであり、市販化されて全国各地の施設に普及。自律分散動作により、冗長性と低コスト化を実現している。UECSを活用したネットワークによって、植物の生育状態や環境モニタリングなどの情報を取得し、AIによる分析・判断支援を行うことで、少ない人数での複数施設管理や、環境制御の高度化が可能になる。このようなIoT及び廉価デバイスを用いたデータ駆動型農業への転換、実践・普及にはDX人材の育成が不可欠であり、今回のオーガナイズドセッションがそうした人材育成のきっかけになれば等と目的を語った。
 続いて、▽Raspberry Pi PICO互換機で構成したUECSノードの開発(黒崎秀仁氏・農研機構)▽多様な環境変化を手軽に再現可能な携帯型UECSシミュレータ(堀本正文氏・九州大学など)▽UECS端末のためのCCMパーサとローコード開発環境の開発(中西恒夫氏・福岡大学など)▽持続的施設園芸達成を支援するUECSプラットフォームを使ったマスフロー管理システム(星岳彦氏・近畿大学など)―などの8講演と質疑応答、総合討論が行われた。
 星氏の講演概要をみると、組織経営においては収入支出が重要となり、今保有しているキャッシュ(状態値)はさほど重要ではないのと同じように、施設の環境制御においても、温室経営のマスフロー(物質・エネルギー収支)が重要になると指摘。現在の環境制御は状態値だけが活用されており、収支の情報が欠けているため持続的な生産や及び施設経営が難しいと前段を述べた。
 そこで、星氏らはUECS情報プラットフォームと計算モデルを用いて、生産者が低コストかつリアルタイムでマスフロー推定値を把握できるガジェットのプロトタイプを開発。これは、UECS機器同士で通信する環境計測制御情報を写し取り、低コストIoTコンピュータでマスフロー値をリアルタイム計算するもので、UECSを活用した温室なら比較的安価に設置できるという。
 星氏らは、この仕組みを近畿大学のUECS導入イチゴ栽培温室にて実証。CO2施用が植物生育と施設外環境に与える影響を解析してみたところ、炭素と水のマスフロー値が精度よく得られ、CO2施用の効果を顕著に示すことができた。計測したマスフロー値から推定したイチゴ栽培施設のある1日の炭素と水の定常収支を割り出したところ、CO2施用により、非施用に比べて光合成量が2・2倍に増加し、イチゴの生産性は約2・4倍になり、CO2排出量と灯油使用量はほぼ変わらないが、施用したCO2の97%は光合成に使用されず、ロスとして環境に放出されていた。
 また、UECSの計測制御データから、試験期間中の床面積1平方メートルまたはハウス当たりの日平均マスフロー値(植物同化量、電力・灯油消費量、CO2排出量など)を算出し、CO2施用による植物成育のマスフロー値を推定するモデルを作成したという。星氏は今回の研究成果は、局所施用法などCO2施用法の改善への取り組みに役立てられるのではと語り、CO2排出減に有効になると展望した。

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