MENU
令和7年1月27日発行 第3537号 掲載

山下農園視察/欧州視察から―伊仏の農業に浸る6

 フランスの農機販売会社ル・ゴフ&ジルを後にした視察団一行は、昨年に続きパリ近郊のイヴリン県シャペ村にある山下農園を訪問した。
 農園主である山下朝史氏は、1953年東京生まれ東京育ちの71歳。「今年のフランスの気候は寒冷で雨も多かった。春野菜が1カ月遅れ、秋野菜も1カ月早まり厳しい年だった」と語った。その上、オリンピックの影響もあり、売上げが立たない時期もあったという。
 山下氏は89年にシャペ村で盆栽業を始め、あっという間にフランスでの知名度を獲得。しかし、有名になるうち、手塩に掛けた盆栽が盗難に遭うなどして、ほどなく廃業してしまう。
 その後、盆栽のレンタルをしていた旧ニッコーホテルの料理長から、土地が余っているなら日本野菜を作ってみないかと言われて、右も左もわからないままに農業を始めることになった。日本野菜を栽培するうち、日本の食文化を海外で展開する意味を考えるようになり、フランス料理の中で日本の野菜を活かすことを意識するようになる。
 伝手をたどって手土産で持っていったカブをグランシェフに食べさせたところ、シェフの顔色が変わる。それが今につながる突破口となり、3つ星レストランのシェフとの取引が始まった。
 今は6軒の限られたグランシェフに対し、「(山下氏の)好きな時に、好きな野菜を、好きなだけ、好きな値段で」という取引条件のもと年間50種類ほどの野菜を提供している。その野菜の価格は市場の10倍にものぼる。例えばトマトならキロ当たり3500円とのことだった。新たな作物では、山下ブランドの下仁田ならぬシモネタネギや、ブランド鶏のブレス鶏の卵などもある。
 山下農園の圃場は1000坪ほど。粘土質で北向きの斜面で条件は良くない。そこに温室なども立て、農機はホンダの耕うん機1台で作業に当たる。農業はすべて独学。盆栽で得た剪定の技術と己で構築したロジックだけで、日々野菜と向き合い続けている。農薬も肥料も必要であれば使う。 山下氏は「化学性のものは石油からできている。由来は植物。植物も外敵から守るために毒を作る。それが石油に溶け込んでいるのではないか。それを抽出した物が化学性農薬だと私は理解している」と述べる。太古の地球とコミュニケーションするつもりで向き合うとも。「うちの野菜は気立ての良い子に育ってほしい。外敵やストレスはガードして育てる」とも話す。圃場ではミニトマトやカリフラワーの花を試食させていただいたが、味の良さに視察団員からは驚きの声があがっていた。
 山下氏は現在、農業生産者や料理人を育成する「山下アカデミー」の設立に向け、シャペ村とともに準備を進めている。
 この記事を持って第77次欧州視察の連載記事を終え、筆を置くこととする。

カテゴリー別最新ニュース