新春インタビュー:木材の持つ価値高める/林野庁長官 青山豊久氏

国土の3分の2が森林という我が国にとって、ここから産み出される有効な資源をどう活かし、国民に還元していくかは重要な社会的な課題となってくる。基本計画に示した「グリーン成長」の実現を掲げる林野庁では、「伐って、使って、植えて、育てる」の循環利用の確立を大前提として、森林・林業・木材産業の持続的な発展を目指して各種施策を展開し、魅力ある産業へ前進させようとしている。そこで今回、新年号の新春インタビューとして林野庁・青山豊久長官に登場願い、現在の情勢認識をはじめとして、課題の克服に欠かせない林業イノベーション、とりわけ林業機械化への対応策など、今そしてこの先の展望、手応えなどをうかがった。青山長官は、新技術の重要性を指摘し、機械開発・実証などを含めて積極的な対応を進めたいと意欲を示した。
――現在、カーボンニュートラル2050の実現に向けて温暖効果ガスを吸収・固定する森林・木材の役割に対する関心も高まりをみせておりますが、森林・林業・木材産業のいずれもが課題を抱えているのが現状です。どのように見ておりますか。
青山 戦後造成された森林は、まさに利用期を迎えています。しかし、植樹したころに比べると、木材の価格はかなり低下しており、特に、森林所有者の収入に当たる山元立木価格は1980年にピークを迎えた後、2000年代にかけて長期的に下落を続けてきました。このため、利用期を迎えても伐採されることが少なく、50年生を超えるものが約6割以上を占めているというのが現状です。
令和5(2023)年に内閣府が公表した「森林と生活に関する世論調査」では、国民が森林に期待する役割の第1位は「地球温暖化の防止」でした。森林が、二酸化炭素を吸収して炭素を固定することを考えると、今のように、森林が伐られずにいることが望ましいようにも見えますが、実はそうではありません。
――といいいますのは。
青山 森林は、20年生を超えたあたりから成長量が年々小さくなっていき、森林の高齢化は、二酸化炭素吸収量の減少を意味します。利用期を迎えた森林は「伐って」、木材をまちの建築物に「使って」、山には花粉の少ない苗木を「植えて」、元気な森林を「育てて」、森林の若返りを図っていくことが理にかなっています。そして、伐採した木材を建築用材として永く使うことは、街の中にも炭素を貯蔵していくことになります。さらに、木材は、鉄やコンクリートなど他の資材に比べて製造時のエネルギー消費が少ないという利点も持っています。
我々森林・林業にかかわる者は、国民の期待に応えて、森林が「地球温暖化の防止」に向けて二酸化炭素の吸収源として十分な役割を果たせるよう、利用期にある森林資源は「伐って、使って、植えて、育てる」循環利用をしっかりと行って若返りを図り、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献していくとともに、次世代に持続的利用が可能な森林資源を引き継いでいくことが大切だと考えます。
――そのために、どのような方策をお考えですか。
青山 森林資源の循環利用を進めていくためには、幅広い分野の建築物で木材利用を促進していく必要があると考えています。最近、都会では高層木造ビルが見られるようになってきました。我が国の人口は減少局面に入っていますので、住宅分野での需要拡大のみならず、オフィスや商業施設など非住宅分野の建築物においても積極的に木造・木質化を図っていくことが必要です。
川中においては、木材加工流通施設の整備、JAS材やCLTなどの普及促進による木材産業の競争力の強化などの施策を推進していくとともに、川上においては、路網の整備や再造林の低コスト化、スマート・デジタル技術の活用を図っていく必要があります。
森林整備に関しては、「森林環境譲与税」の活用も重要です。「森林環境譲与税」は、令和元年度のスタートから5年が経過し、各地で間伐等の森林整備、人材育成・担い手の確保、木材利用・普及啓発などの取り組みが行われてきました。今年度から「森林環境税」の徴収が始まり、あわせて山村における森林整備をより一層推進する観点から譲与税の配分基準の見直しが行われたところです。国民の皆様から頂いた貴重な財源をしっかり活用して、全国各地の森林整備がより一層進むことを期待しています。
また、森林環境譲与税と関連の深い森林経営管理制度については、森林の集積・集約化による循環利用が着実に促進されるよう見直しを行い、次期通常国会への法案提出に向けて検討を進めているところです。
冒頭で都会における高層木造ビルの増加に触れましたが、これは、TCFD、TNFD、CDPなど気候や自然に関連する企業の財務情報開示の動きの認知度が高まるにつれて、企業による森林・木材への関心が高まっているからだと感じます。「J―クレジット制度」においても、森林管理プロジェクトの件数やクレジット認証量が増加しているように、森林や林業の価値を新たな視点で評価する動きが広まっています。
林野庁としても「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」や「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」を公表しましたが、これらの企業の動きを、森林資源の循環利用になんとかつなげていけないかと思っています。
――また、林業の課題を解決するためには、新技術の開発・普及を推進することが重要な政策の1つだと考えられますが、現在の進捗状況、手応えはいかがでしょうか。
青山 令和3年度に「林業イノベーションハブセンター」を設置して、新技術の調査や、推進方策の検討・実施に取り組んできました。林業の現場を大きく変革するイノベーションの実現には、林業に長く携わってきた関係者だけでなく、異分野からの参入が欠かせません。このため、多様な組織、人材が集まり、交流や協業を進めていくための場として、令和5年度に「森ハブ・プラットフォーム」を開設しました。既に500者近くの方に会員登録をしていただき、新規参入事業者向け事業開発のポイントの解説や、新技術の普及に向けたマッチングなどのイベントを3回開催しています。
また、林業分野におけるデジタル技術の活用も重要なテーマです。森林調査から原木の生産・流通に至る複数の工程において、デジタル技術を活用し、地域の木材生産・流通コストを低減し、収益性を向上させる必要があります。令和5年度から、川上から川中の事業者の連携の下に、地域一体でデジタル技術のフル活用に取り組む北海道、静岡、鳥取の3地域を支援しています。
――具体的には。
青山 北海道地域ではICTハーベスタデータの商取引への活用、静岡地域では山土場における丸太の生産情報の集約と川中への納品情報のデジタル化、鳥取地域では県産材証明書のトレーサビリティーのデジタル化と需給情報の集積・共有等に取り組んでいます。いずれの地域においても、地域の課題に根差した取り組みが進展しており、令和7年度までには、自律的にデジタル技術の活用や改良に取り組み続ける体制の構築を目指しています。今後は、3地域の取り組みを通じて得られた知見・ノウハウを整理することを通じて、全国各地にデジタル林業を広く定着させていきたいと考えています。
――技術面では、先般の福井での全国育樹祭の関連行事である「2024森林・林業・環境機械展示実演会」をご覧になったかと思いますが、印象はいかがですか。
青山 森林・林業・環境機械展示実演会では、大型機械の実演の様子を熱心に見ておられる方が多いことが印象的でした。送電線にかかる樹木を伐採する機械といった、特定の条件下での顧客ニーズに特化したアイデアも印象に残りました。若い人たちが林業の世界で働きたいと思ってくれるためにも、高性能な林業機械の役割は大きいと感じました。
また、林業が憧れの仕事になるためには、林業が儲かる仕事になる必要があります。そのためには、林業機械の技術開発により生産性を高めることに加え、木材の持つ価値をもっと高め、木材需要を創出することが重要です。森林を整備し、伐期を迎えた樹木を伐採することは森林を若返らせることにつながり、地球温暖化防止対策にもなることなどを、もっとPRしていかなければならないと思います。木材を使うことは環境について考え、行動している証なのだと評価される流れを作っていきたいと考えています。
――林業の機械化では生産性向上はもちろん、労働力確保まで様々な役割を担っております。推進に向けての施策をお聞かせください。
青山 これまでハーベスタやプロセッサ、フォワーダなどの普及を図ってきましたが、林業機械の次のステップは、林業の安全性や生産性のさらなる向上を目指す、遠隔操作化や自動化の取り組みです。近年の成果としては、遠隔操作の油圧集材機・架線式グラップルや下刈機械が実用化され、各地で実証事業を行っています。さらに、遠隔操作の伐倒機械、自動運転のフォワーダや下刈機械などの技術開発を進めているところです。
今後は、遠隔操作については、実際の作業システムの中でいかに有効に活用するか、さらに、検証を踏まえたメーカーによる改良が重要になってくると考えています。また、自動運転については、技術的な難易度がより高いため、技術開発にはまだ時間を要すると思われますが、実際の運用環境下での実証も始まっています。
これらの新たな林業機械が林業現場に導入されることで、生産性のさらなる向上が図られ、労働環境の改善を通じて、林業労働力の確保にもつながることを期待しています。









