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令和6年12月2日発行 第3531号 掲載

今後の九州農業を考える/九州農政局長・北林英一郎氏インタビュー

 2023年7月に九州農政局長に就任した北林英一郎氏。農林水産省に入省し、30年近く農業土木関連の業務に従事した。そういった経歴から「現場第一主義」を大切にしているという。また、講演会などでは地域農業の重要性について「時には地球規模で地域の未来を考えてみる。未来づくりの主役は地域!」と力強く話す姿が印象的だ。同氏に、日本の食料基地としての九州農業の取り組みや、今年6月に施行された「食料・農業・農村基本法」の改正法、10月に施行された「スマート農業技術活用促進法」などについて聞いた。そして今夏の米の品薄についても質問を投げかけた。
 ――九州農業の現状と政策についてお願いします。
 北林 温暖化や地域紛争が原因で小麦などの穀物、そして燃油や肥料など資材の価格が高騰し必要な量を集めることが難しくなりました。加えて九州においても担い手と農地の減少、自然災害や家畜伝染病の脅威、トラック運転手の時間外労働規制等で物流の停滞が危惧される「2024年問題」など、食料の安定供給を脅かす課題があります。
 例えば九州の耕地利用率は、水田を活用した裏作麦や飼料作物の作付が行われていることから、約102%と全国平均を10ポイント以上上回っていますが、高齢化で営農ができなくなったり宅地や道路などへの転用により、耕地面積は減少しています。これまで農業の生産力を維持するために営農に適した農地をまとめて担い手に集めていくことや、農業のスマート化などを進め、生産性を高めるなどの対策を行ってきました。それ以外にも気候変動によって頻発する自然災害や家畜伝染病、生産資材の高騰、物流問題などの課題に対しても緊張感をもって取り組んでいます。
 ――24年度の政策のポイントは。
 北林 今年度の農政の大きな動きは、「食料・農業・農村基本法」の改正法が6月に公布、施行されたことです(以下、改正法と表記)。改正法は、前の制定から四半世紀が経過する中で、世界及び我が国の食料をめぐる情勢が大きく変化していることや、この25年間で明らかになった課題を踏まえ、国民1人ひとりの「食料安全保障」を基本理念の中心に据え、「環境と調和のとれた食料システムの確立」などが新たな理念として位置付けられました。現在、改正法に基づく新たな食料・農業・農村基本計画の策定に向けた議論が行われているところですが、各施策は生産、加工、流通や消費者など、幅広い関係者の皆様の理解と支持があって初めて成り立ちます。皆様に関心を持っていただけるよう、丁寧に説明していくことから始めようと考えています。
 ――九州におけるスマート農業の取り組みと、今後の農機の役割について。
 北林 先に申したような農業の抱える問題を克服し競争力を強化していく上で、スマート農業を推進していくことは重要な課題です。農林水産省はスマート農業技術の現場実装により経営改善の効果を明らかにするため、19年度から「スマート農業実証プロジェクト」を全国217地区、九州では44地区で実施してきました。九州では、施設園芸や畑作、露地野菜の取り組みが多く、労働時間の削減や病虫害等の蔓延リスクの低減、女性や若者の参画の拡大につながっています。実証プロジェクトなどで得られた農業技術に適した生産方式への転換を図りながら、導入の加速化と開発速度の引き上げも図る必要があることから「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律(スマート農業技術活用促進法)」が第213回通常国会で成立し、今年10月1日に施行されました。この法律は「農業現場でのスマート農業技術の導入を後押しする生産方式革新実施計画」と「技術開発とその普及を後押しする開発供給実施計画」の2本立てで、スマート農業技術の活用による生産性の向上を促進します。九州は温暖な気候を活かした野菜や地域特産作物の生産が盛んなことから、九州農政局としてはこれらの品目を中心に管理や収穫の自動化などのスマート農業技術の活用と圃場条件の見直し、新たな栽培方法、品種の導入による生産方式革新実施計画の作成推進を行い、スマート農業の活用促進につなげたいと考えています。これまでもトラクタやコンバインといった農業機械は生産性の向上を図る重要な役割を担ってきましたが、さらに気候変動や国際情勢の変化を踏まえ、食料安全保障の確保を図る手段として新たな革新的な農業用ソフトウエアや通信技術の活用、AIを使った出荷予測や自動化を装備した農業機械の役割は重要になっていくでしょう。
 ――労働力の確保と農村の振興については。
 北林 今後の20年で基幹的農業従事者数が現在の4分の1まで激減する恐れもある中、農地を有効利用し、農業を維持、発展させるためには各地域の皆様が農地や農業の将来の姿についてしっかりと話し合い、誰が農地を担うのか、担い手に農地をどのように集めるか、地域の農業をどのような戦略で盛り上げていくかなど、将来方針を決定しその実現に取り組むことが重要だと考えています。そのため現在、各市町村において、地域農業の将来方針を「地域計画」として策定していただいているところです。
 九州農政局では、認定農業者に対し融資や税制などを通じた重点的な支援のほかに、九州各県に設置された農業経営・就農支援センターにおける相談に力を入れています。また、様々な資金メニューや機械・施設の導入支援、新規就農者の受け皿としても重要な農業法人への支援などにも取り組んでいます。そして労働力不足を解消するため、繁忙期の異なる地域間での調整や、外国人の受け入れを推進するなど、農業の労働力の確保に取り組んでいます。それと同時に、人口減少や高齢化の対策として、農村の振興を図る必要があります。具体的な施策は(1)地域の食材を活用した加工品の開発・販売など所得向上と雇用機会の確保(2)農村型地域運営組織の形成や鳥獣被害防止対策(3)企業と地域の連携促進や地域づくり人材の育成(4)中山間地域などにおける地域の話し合いや農地の粗放的利用の促進―などの取り組みを支援しています。
 ――今後の九州農業について。
 北林 改正法では「食料安全保障」が理念の中心に位置付けられています。食料の安定的な供給は生産基盤の確保が重要です。九州は農業産出額が全国の約2割を占める日本の食料基地です。引き続き、その役割が果たせるよう、生産基盤の強化と供給能力の維持に注力します。また、日本は人口減少が進み、国内の飲食市場は縮小が見込まれます。普段から海外の需要を取り込んで生産力を高めておくことは、食料の不足時にも対応できます。諸外国に近く、ポテンシャルの高い九州において、さらなる農産物の輸出拡大にも取り組みます。
 ――最後に、今夏の米の品薄について。
 北林 10月30日に開催された「食料・農業・農村政策審議会食糧部会」において、分析と対応について報告しました。今回の分析で、各流通段階における供給状況は昨年と同程度からそれ以上でしたが、8月の南海トラフ地震臨時情報などを受けた買い込み需要に供給が追いつかない状況が発生したこと、品薄に関しての特別な情報発信や流通関係者への働きかけが、状況が顕在化した8月下旬からの取り組みとなったことなどが明らかになりました。このような背景、分析を受け、今後は(1)主要集荷業者・卸売業者に対する端境期前(6月以降)から端境期(9月中旬)までの集荷量、販売量、在庫量の週次調査の実施(2)卸売業者やスーパー・米穀店への流通実態に関する定期的なヒアリング(3)米の流通の現状のポイントをまとめて発信するなど消費者にもわかりやすい情報発信(4)米の需給に関する基本的な情報についての月例記者ブリーフィングの開催―などの対応を行ってまいります。

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