ベトナムの米輸出、香り米に移行し成功/農林水産政策研究所・5年度カントリーレポート

農林水産政策研究所はこのほど、「令和5年度カントリーレポート:ベトナム、中国、インド、西アフリカ」(2024年3月)を取りまとめて公表した。第1章「ベトナム―コメ輸出大国の国内事情―」から、ベトナムの最近の米政策・動向を中心に概要をみる。
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◆農地政策
ベトナムは近年、常に世界第2~3位の米輸出国であり続け、2023年には過去最高の米輸出量・輸出金額を記録した。かつては旧ソ連型中央計画経済体制下にあったが、1980年代から経済自由化・対外開放政策(いわゆるドイモイ政策)を採用したことによって、その後、高い経済成長率を示した。
1988年、農家に生産物を自由に処分する権利を認めたことにより、ベトナムの集団農業生産は事実上終焉を迎えた。これを法的に保証するために、1993年に土地法が改正され、土地の国家管理(全人民所有)の建前を維持しつつも、各個人に土地使用権を分配するという形を取った。2000年には水田の転作が容認され、国際米価が高騰した2008年、農地規制策へと転換された。しかしその後、生産過剰の状態となり、2013年には、必要な生産量を維持しつつも、農地の効率的な活用(水田を他の農作物へ転作)を推奨するようにと、再び政策転換が行われた。
また、同年10月「農産品の生産と販売の連携を強化し、大圃場を建設するための奨励政策に関する政府首相決定第62号」が公布され、積極的に大規模農業を奨励するようになった。同決定は、大規模な圃場を経営する農民または農民組織が企業と契約して販売を行う際の様々な助成制度を規定している。
◆新米政策のその後 2008年8月に、2010年及び2020年までの農業政策の目標を示した「農業・農民・農村に関する中央執行委員会第26号決議」が公布され、これを受けて、政府の今後の食料政策の方針として2009年12月には「国家食糧安全保障に関する政府決議63号」が公布された。これは、ドイモイ政策以降の農業の市場経済化・近代化の方針を引き継ぐ一方で、国家食糧安全保障を農業政策の最優先課題にしたものである。この決議方針を執行するために、2010年11月に公布された政府議定109号は、(1)価格支持策(2)業者規制―という新たな米政策を打ち出した。それらの政策とその後の状況は以下の通りである。
まず(1)に関しては、最低・最高価格を定めて業者に指示するとあった。だが、実際に行われたのは、米価下落時に米を購入した業者が銀行から融資を受けた際の利子補給である。(2)に関しては、倉庫と精米施設の所有を条件に輸出業者を認可した。しかし、基準を満たしているかの検査は認可時のみで、その後は実際にはどの機関も業者への監視は行っていない。
これらの新政策の実施状況をみてベトナム政府は、109号議定に代わる新たな政府文書107号議定を2018年8月に交付した。元々機能していなかった価格支持に対して、107号議定は価格政策を正式に廃止した。
また、107号議定は米輸出管理の方法も大きく変えることになった。ベトナムの米輸出は1990年代から輸出割当制度を維持しつつ、徐々に規制緩和が図られてきた。109号議定の規定では、政府間契約の輸出米のうち20%は契約事務を行った業者自身が輸出するが、残り80%は米輸出業者の業界団体であるベトナム食糧協会が参加業者に割り当てることになっている。しかし107号議定によって、輸出業者は食糧協会を通さずに直接輸出できるようになった。現在の食糧協会の仕事は、事業に対する補助、貿易のプロモーション(セミナーの開催や輸入国への訪問等)などである。
107号議定第4条に米輸出業者として認可される条件として「基準を満たす米倉庫及び精米機を所有する」とあり、また、第22条でその米倉庫及び精米機の事後検査を規定している。しかし実際には、第4条の事前審査は行っているが、第22条の事後検査は行っていない。さらに同議定第12条に「輸出業者は過去6か月分の米輸出量の5%に相当する最低流通準備量を維持する」とあるが、実際には、検査も行われず制度は実現していない。
◆2023年の米輸出とその背景
2007年からの国際米価高騰期と同様、2023年にもインドは米の輸出規制を行ったが、ベトナムは輸出規制を行わなかった。そして同年のベトナムの米輸出は、輸出量(833万8000トン、前年度比17・4%増)、輸出金額(48億1600万米ドル、同39・4%増)ともに過去最高を記録した。
また、2007~2009年には激しい物価上昇に見舞われたが、2023年のベトナムの消費者物価は前年度比3・25%増、食料価格は6・85%増に留まっている。
2023年の米輸出がこのように「成功」した理由は、実質的に米輸出業者の参入障壁を高くしただけの米新政策だけではなく、米生産・輸出の構造が2007年当時と大きく異なっているためと考えられる。一番大きいのは、かつてベトナムは低品質・低価格米の輸出が中心だったが、高価格の香り米等の輸出に移行している点である。具体的には、2010年段階ではベトナムの米輸出金額のうち白米の割合が89・8%と圧倒的で、香り米が3・7%、もち米が2・0%に過ぎなかった。それに対して2017年にはそれぞれ36・4%、29・0%、23・5%と大きく構造を変えている。つまり、白米が中心の国内市場と、香り米が大きな比重を占める輸出市場との分離が進み、国際米価と国内米価との相関関係が小さくなってきことが、2023年の米輸出の「成功」をもたらしたと考えられる。









