この人に聞く・東京大学大学院 深尾隆則教授/北海道特集

北海道河東郡鹿追町で9月、キャベツ栽培の自動化一貫体系の確立に向けた実演会が行われた。自動収穫技術で開発に携わったのが、今回話を聞いた東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の深尾隆則教授だ。深尾教授はもともと、乗用車の自動運転の研究を行っており、農業分野の他、トラックの隊列走行、フォークリフトや軽トラックの自動運転、ハイリフトローダー(飛行機に大型コンテナを入れるための車)の自動化など、主に屋外で走る車両やロボットの自動化の研究を行ってきた。ここでは、農業に関わることになった経緯や関わる中で感じるようになった農業のあり方や課題など、様々な観点から話を聞いた。
深尾教授は、農業において、画像認識や自動走行、アームを使った収穫などを含む自動化技術全般を研究している。現在、農業分野の自動化技術で深尾教授が携わっている作物は、キャベツの他、果樹、リンゴ、ブドウなど。以前は収穫のみだったが、今はその領域を広げつつある。
今回の実証で行ったキャベツの自動収穫を例にとると、キャベツの苗を畝の端に植えてしまうと、生育が進んだ時に畝から落ちてしまい自動で収穫できず、止まってしまうことがあった。そこでヤンマーアグリ、帯広畜産大、オサダ農機らとの共同で、耕うん、畝立て、定植、収穫までを自動化した。一連の作業を自動化したことで、苗が畝から落ちることなく生育し、収穫の精度も向上する結果となった。深尾教授は、自動収穫と定植の部分の技術を担った。
今後の農業について深尾教授は「流通も含めて多面的に考えていかないと限界が来ている。人手不足と地域の維持が大切。各地の農家に自動化の要望があるが、自動化するだけでは現場の人手が不要になるだけ。自動化をしなければ、農業の労働負荷が高いため、人が集まらないが、自動化と並行して人を地域に呼び込むことを考えなければならない。自動化を単に儲けの手段として考えるのではなく、儲けを増やし、労力を減らし、人を増やすためのツールとして活用しなければならない」と言う。
農家心理としては、土地を放棄することが心苦しい。鹿追町でも、土地の維持が限界に来ている。キャベツをやめて、儲からなくても栽培面積を維持できるような作物への転換が進み、農家は収益が減るよりも耕作放棄地にならないことを優先している。「そのため、可能な工程から自動化することで、収益性が保たれるようにしていきたい」と話す。耕せど耕せど儲からないという状況を打破するための技術が自動化技術である。
また、農作業の自動化だけを考えるのではなく、収穫したキャベツの加工工場の自動化なども模索し、関連の産業も活性化させていくことが今後重要になってくる。「日本全体の問題であるが、どこも人手不足。十勝でも収穫作業の請負の人が来てくれない。十勝の工場も人手不足でそちらに人手が取られている。野菜の加工工場に届くキャベツはコンテナで運搬されるため、工場で取り出す人手が必要。しかし、重労働のため、取り出す人がやめていってしまう」とも。そのため、工場の受け入れ作業の自動化研究も並行して行っている。
前述の通り、キャベツの他、リンゴ、ナシ、洋ナシなどの自動収穫の研究も行っている深尾教授は、長野でシャインマスカットの自動収穫もデンソーと共同で研究する。デンソーとは、長らくトマトの自動収穫技術の共同研究を行っていたという。その技術を応用して、ブドウなどの収穫にも転用している。摘粒やジベレリン処理、コンテナの交換等も自動で行うことで、栽培農家の省力化へつながっている。シャインマスカットは価格的に成り立つが、その他の品種の収穫においては、現状ではコストが高すぎてしまうという側面もある。栽培環境によってではあるが、環境が整っていれば95%程度までは自動収穫できるまで精度は向上している。
自動化の要望を叶えていくと同時に、いかに人を増やしていくかの努力の方も非常に大事であると深尾教授は強調する。北海道でも同様だが、20年前と比べて就農者減少のペースが速まっている。「北海道のある地域では、数年前までは5軒くらいずつだった減少幅が、最近は増えている。そのうえ残っている方々の年齢は65~75歳がほとんど。どこかで一気にいなくなる。その後の減少ペースはかなり遅くなるが、減ってしまうのは間違いない。残った栽培面積が広すぎて、後継ぎがいても、新規就農者には難しい」。鹿追町は新規就農者に対し支援する制度を設けているが、営農には大型機械が必要になるため、初期導入コストがかかってしまう。かといって、所有機械ごとすべて譲渡してくれるような農家はそうそういないのが現実だ。
教授が農業に関わるようになったきっかけは、2001年の同時多発テロの頃にさかのぼる。アメリカで、飛行船を使った研究をしていた。ドローンのなかった当時、上空から対象物を発見するための研究だった。日本ではJAXAと共同で、飛行船を上空約50メートルの低空で飛ばして、災害時の救援活動に役立てる研究を北海道の大樹町で行っていた。「毎年夏に2カ月ほど、10年間大樹町で実験をしていた。その時に、町長を始めとした現地の方々と話す機会があった。私が通った地域には農家が11軒ほどあって40代の1人を除いて、他はすべて70代前後の方々ばかり。そんな高齢の方が、夜10時くらいまでトラクタで仕事をされている。作業内容から見て自動化は難しいことではないと思った。アメリカ滞在中に北海道農業研究センターの方と知り合っていたこともあって、トラクタの自動化を提言し、共同でやり始めたことがきっかけ。実際に目にして北海道の農業現場がお年寄りだらけである現状に衝撃を受けた」。
そこから、野菜や果樹の収穫の自動化へと発展していった。大樹町もかなり学校が閉校して減っているが、宇宙関連事業のベンチャーの誘致などで、若者が徐々に増えている。しかし、農業分野では依然として厳しい状況が続いている。「大樹町の方々は、お金はあるので、より良い教育を受けさせたいとの思いから、帯広や札幌の私立の寮に入れるために子供を町外へ出す。帰ってくればよいが、なかなかそうはいかないことも多い。するとますます若い人がいなくなる。そういう意味では、町に残り、町を良くしていく教育ということをもっと考えていく必要がある」。
北海道の多くの町は面積は大きいが人口は少なく、大樹町も鹿追町も人口5000人程度。その人数で町の機能を維持していけるのか、と深尾教授は不安を口にする。自動化をいくら頑張っても、使う人がいなくなってしまったら本末転倒なのではないか、町作りで人を呼び込むことが重要で、自動化に並行して考えていくべきではないかといった葛藤を抱えていると言う。また、本州では、自動化技術を導入する多くは、既に儲かっている農家ばかり。さらなる規模拡大に向けての自動化技術の活用がメーンであり、ボトムアップの手助けにはなっていないとも。地域で会社を立ち上げるくらいの規模感にしていかなければ、農業を町の産業として維持していくのは難しい、と話す。最先端の農業をやっている道内の地域で、儲けがある程度出ているにもかかわらず、後継ぎが限られるのは、ベースとなるインフラや買い物ができる店が少ないなど、農業以外の産業が乏しいことも要因の1つ。農家の減少もさらに早まっており、状況は厳しい。
自動運転のその先の展望について、収穫後の作物の収納やその後の工程の自動化を始め、野菜工場の自動化、集荷場の自動化などやれることはまだまだ多い。後工程でも人手不足は深刻であるためだ。作物が傷まない工場内の気温は作業者にとっては過酷である。現状、そういった現場を支える多くは外国からの技能実習生だ。しかし、日本の国力が相対的に低下する中、今後も継続し、そこに頼ることができるかは、甚だ疑問である。「とにかく農作物に関わるあらゆる工程で人手不足。出荷ぐらいまでの自動化がまずは当面の目標。大手企業はどうしても、スケールメリットがないと実現してもらえない。だから、まずはある程度の数が見込める部分から自動化していき、その技術を共通化して、横展開できるものへと拡大していきたい。人数がそこまでいなくてもできるような形を作っていく。とはいえ町はなくなっていくかもしれないので、そこから先は自動化した状態をベースにどうするかを考えてもらう必要がある。自動化によって短期間で楽になっても、人は急には増えない。人手は国内で取り合いの状態。本当は町を好きになってもらうためにも、地元の高校などに出向いて授業をしたいくらいだ。以前は地方に仕事がなかったが、今はいっぱいあるし、地方は人が少ないからこそ過当競争にならない。そんな中で成り立つような従来型ではない、流通を含めた地域で行う農業などの構想は、関係省庁などにも働きかけている。農業が主産業となる農村をいかに維持していくかを真剣に考えていかないと、気が付いた時には食べ物がないということもあり得る。同時に農業が自分の裁量で仕事ができて、なおかつ儲かり、豊かに暮らしている方が多いということも全国的にはあまり知られていない。都会に暮らしているだけでは、そんなことには全く気が付かなかった。多くの方はそうだろうと思う」とも述べている。









