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令和6年11月4日発行 第3527号 掲載

EU農政の立法動向/農林水産政策研究所・5年度カントリーレポートから

 農林水産政策研究所はこのほど、「令和5年度カントリーレポート:EU、フランス、ロシア」(2024年5月)を取りまとめて公表した。この中から、第2章「EUの農業・食料部門における環境に係る持続可能性向上に向けた立法動向」の概要をみる。
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 EUでは、域内の農業の環境持続可能性を向上させるため、様々なイニシアティブ・立法措置・予算措置が制定・適用されている。現行の共通農業政策(CAP、2023~27年まで)は、自然と農業の長期的な持続可能性を支援し、「F2F戦略」及び「EU生物多様性戦略2030」における目標を実行に移すため、クロス・コンプライアンスにおけるより高い環境要件や、第1の柱におけるエコ・スキームの導入を含む新たな「グリーン・アーキテクチャ」が包含される政策体系となっている。しかし、その進捗状況は国によってまちまちで、全般的には当初の目標を下回っているとされる。EUは多様な産業構造、所得水準の加盟国により構成されており、柔軟性と持続可能性の達成の間で、適切な形での両立を確保することが重要と考えられる。 ここでは、主な立法措置について、状況別に分類し、具体的内容などを概観する。
 (1)現行の欧州委員会の体制下で法制化が可能か引き続き注視される法案
 (1)畜産農場等からの汚染物質排出規制強化の取り組み
 EUにおいて2010年に制定された産業排出指令は、EU全体で有害な産業排出物を削減することにより、人間の健康と環境を高いレベルで保護することを目的とするものであり、産業施設からの汚染物質排出を規制するための主要な制度となっている。持続可能な食料システムの構築に向け、欧州委員会は2022年4月に産業排出指令の改正案を提案した。このうち、畜産部門における具体的改正案は、養豚に関しては、2030年以降、汚染物質排出に係るルールを、成豚約1100頭、母豚約700頭に相当する350以上家畜単位(LSU)飼養する養豚場に適用するというもの(従前は、成豚2000頭以上、母豚750頭以上)。養鶏に関しては、鶏卵を生産している農場では、従来の4万羽から2万1400羽にルールの適用条件が引き下げられる。2024年3月、欧州議会で承認された。
 (2)EUの生態系再生目標の設定 
 欧州委員会は、2022年6月に「自然再生法」案を提案。2030年までに状態の悪い生息地の30%、40年までに60%、50年までに90%を回復するという目標が盛り込まれている。さらに、2030年までに排水された泥炭地の少なくとも30%、40年までに40%、50年までに50%を回復させなければならないとしている。2024年2月、欧州議会で承認。
 (2)現行の欧州委員会の体制下で実現が困難であるが、引き続き法制化に向けた検討が続く法案
 (1)土壌健全性回復に向けたモニタリング枠組み設定等 
 2023年7月、欧州委員会は「土壌モニタリングと回復力に関する指令」案を公表。2050年までにEU全域の土壌を健全な状態にすることを長期目標とし、▽土壌の健全性に係る定義の統一▽包括的かつ首尾一貫したモニタリングの枠組みの設定▽持続可能な土地管理と汚染地の修復に関するルール―などが規定されている。2024年3月に欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会で立法報告書が採択され、4月の本会議における採択を待っている状況である。
 (2)炭素除去認証枠組みの新設 
 2022年11月に欧州委員会は、C02の回収・貯留について独立した形で検証・認証するための新たなルールを含む「炭素除去に係るEU認証規則」(CRCF規則)案を提案。同規則案が施行されることで、農業者により貯留されたC02をカーボン・クレジットとして取引し、自社の排出量と相殺したいと考える事業者に販売することが容易になるとともに、農業者は、環境に係る持続可能性への貢献の報酬として追加的な収入を得ることが可能となり、持続可能なカーボン・ファーミングが促進されるインセンティブになると考えられる。2024年末までに発効される予定。
 (3)新ゲノム技術の利用促進 
 2023年7月に欧州委員会は、先進的な科学的手法であり従来の育種方法よりも正確かつ迅速に植物の遺伝子を改変できるいくつかの新ゲノム技術(NGT)に対して、EUの要件を緩和することを主な内容とする「特定の新ゲノム技術に係る規則」案を提案。NGTを「NGT1」と「NGT2」という2つのカテゴリーに分け、NGT1については、遺伝子組み換え体(GMO)に対する従前の厳しいEU市場要件から除外することで、使用を容易にするもの。これに関しては、カテゴリー分けの基準に議論があるなど合意形成が難航しており、協議が継続される見込み。
 (4)動物福祉向上に向けた生きた動物の輸送時間の上限設定等 
 動物福祉に係る立法措置の見直しに関して、欧州委員会は、F2F戦略において、2023年末までに動物福祉法制を最新の科学的根拠に整合したものに見直す方針を示した。この中には、2023年12月に欧州委員会が提案した「輸送その他の関連活動中における動物保護規則」改正案が含まれる。同改正案では、厳格な温度・空間に係る要件を課すとともに、と畜場への輸送に関して、馬・牛・羊・山羊・豚は最大9時間、家禽類に関しては最大12時間に制限するよう提案されている。農業団体からは、負担が増加して、畜産活動自体の終了に追い込まれる農業者が発生する旨の批判的な論調も見受けられる。 
 (5)法的拘束力ある食品廃棄物目標の設定 
 欧州委員会は、2030年末までにEU加盟国により達成されるべき法的拘束力ある食品廃棄物削減目標を「廃棄物枠組み指令」の改正案の一部として提案。具体的には、2030年までに▽食品加工・食品製造において10%の食品廃棄物削減▽小売と消費の合計で1人当たり30%の食品廃棄物削減―の達成を求めた。これに対して欧州議会はさらに高い目標値を提示しており、今後の動向に留意する必要がある。

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