非農家から新規就農/四国農家ルポ・大上憲一郎さん

南は土佐湾に面し、北は四国山地を背にし、徳島県と接している高知県安芸市。市内の中央部には安芸川・伊尾木川が南流し、その流域に安芸平野が広がっている。温暖な気候や長い日照時間、地味肥沃な土壌という恵まれた環境を活かし、生産性の高い「施設園芸農業の先駆けの地」として知られている。
中でも「ナス」の生産量は全国トップクラスで、日本有数の生産地として、全国各地に出荷されている。
この地でナスを生産している大上憲一郎さん(31歳)は、就農して3年目になる。兵庫県神戸市の非農家出身で、幼いころボーイスカウトで田植え体験をして以来、農業に漠然と興味を持つようになった。農業への興味は常にあり、高校は農業科に進もうと考えていたが、周りに農業をしている人がおらず仕事としてのイメージが湧かなかったため、普通科へ入学した。
しかし大学を決める際、長年の農業への興味とタイミングや縁などが重なり、高知大学の農学部に進学した。
「理想としては、卒業後に就農することを考えていたが、作物のことだけでなく農業経営などを学んでいくうちに、私には土地がなく、機械を買うお金もない。また栽培技術もないということに気づいた」と笑う大上さん。
そのため卒業後は故郷に戻り、会社勤めをした。しかし「やはり農業がしたい」という思いが募り、退職し再び高知に戻り、令和2年8月に高知県の担い手育成センターに入校した。
「1年間、定植から収穫までの一連の流れを学ぶことができた。また、機械の操作なども習得することができた」と大上さん。同センターで学んでいく中で、ナスを栽培品目として考え始めた。「前職で北海道に転勤になった際、スーパーで安芸市のナスが売られているのを見た。遠い北海道に安芸市からナスが届き、買う人がいることを知り、魅力を感じた」という。
ナスの産地である安芸市での就農を決めた大上さんは、担い手育成センター卒業(令和3年8月)後は、安芸市の受入農家である谷山浩一さんのもとで1年間研修を行った。「担い手育成センターとは違い、現場でしか体験できないことが多くあった。就農するに当たって実践的に学ぶことができ、独立に向けて良い準備ができた」と振り返った。現在もナス栽培について相談し、アドバイスをもらうなど、谷山さんは大上さんの師匠となっている。
令和4年7月からは安芸市のサポートハウス(16アール)を借りて、いよいよ1人での営農を始め、今年で就農して3年目になる。
ナスの年間栽培スケジュールは、8月下旬から9月初旬まで定植を行い、早ければ9月の下旬頃から収穫できるようになる。そして翌年の6月まで収穫が続く。取材時は5日ほど前に定植を終え、3年目のシーズンがスタートしたところだった。
就農し「1年目は大失敗した」という。「いきなり病気を出してしまい、大きな被害を出した。2年目は、病気こそ出さなかったが、今度は農薬散布のタイミングを間違えて虫が発生した」と、就農して2年続けて試練があった。病気や虫が発生した際、大上さんはとりあえず頭の中にある対策で対処するという。しかし事態を収めることができず、最後に師匠に相談する。「師匠にはいつも相談しにくるのが遅いと怒られる」という。自分で何とかしようという思いはあるが、まだまだ経験不足は否めない。「高い授業料になったが、良い経験ができた」と大上さん。今シーズンは始まったばかりだが今のところ順調だという。
大上さんが所有する農機はクボタのトラクタSL280で、今年の6月に納品されたばかりだ。現在は、中四国クボタ安芸営業所の河添敦司所長が大上さんを担当している。河添所長はもともと、大上さんの師匠である谷山さんを担当しており、その頃からの付き合いだ。「トラクタをはじめ、作業に必要な関連機器など、いろいろアドバイスをもらっている」と、大上さんの今後の営農に欠かせない存在となっている。
大上さんの今後の目標を伺うと「栽培技術を伸ばしたい」と答えた。「就農して3年目。まだ満足したものを作れていない。今後規模を広げていくのに人を雇わなければならない。そのためには自分自身が人に教えられるレベルでなければ、人材を活用することができない」と、経験と実績を積み重ねていくことを目指す。
そんな大上さんは現在、大きな事案を抱えている。サポートハウスの契約が今シーズンまでのため、来期からはいよいよ、自分でハウスを用意しなければならない。すでに借りる土地は決まっているが、ハウスの建築をどのようにするかはこれからだ。現在見積りを集め、新しくハウスを建てるか、レンタルするか、中古にするか、それぞれのメリット、デメリットを見ながら思案中だ。もちろん河添所長にも相談している。
また、今年の6月に入籍し家族を持った大上さんは、人生にとって、そして農家としても未来を決定づける重大な局面を迎えている。
独立し自分の城(ハウス)を建てる大上さんを支えるのは、これからもクボタの農機であり技術に違いない。









