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令和6年9月2日発行 第3519号 掲載

農作業安全の確立に向けて/第9回農作業安全検討会から

 農林水産省は、農業における労働安全が十分に確保されていないとし、令和3年2月、農業者・農業者団体、労働安全に係る有識者、農機関係団体などを委員とする「農作業安全検討会」を設置。同年5月に「農作業安全対策の強化に向けた中間とりまとめ」を策定した。以降、その取り組みの進捗確認とともに、効果的な対策の方向性などについて議論を重ねている。8月22日に9回目となる検討会が開かれ、農作業の安全性強化の枠組みづくりに向けた協議が進められた。ここではその内容を軸に、取り組みの現状をみる。
 ◆農作業死亡事故の現状
 令和4年の農作業事故死亡者数は238人で、前年(令和3年)と同水準となった。一方、就業者10万人当たりの死亡事故者数は11・1人と増加傾向にあり、依然として他産業と比べて高い状態が続いている。
 また、令和4年に発生した農作業死亡事故を要因別にみると、「農業機械作業に係る事故」が152人(全体の63・9%)と高い状態が継続しており、その要因としては「機械の転落・転倒」が72人(機械事故の47・4%)と約半数を占める。機械・施設以外の作業に係る事故では「熱中症」が29人(全体の12・2%)と最も多く、農作業死亡事故に占める割合も増加傾向にあることから、機械作業対策に加えて、熱中症対策の強化が必要であるとした。
 ◆新しい安全性検査制度
 農業機械の安全対策の強化として進められている新しい安全性検査制度については、乗用型トラクタ、歩行型トラクタ、自脱型コンバイン、乗用型田植機、乾燥機(穀物循環型)の5機種を対象に、令和7年度から新基準の適用が決まっている(図)。現在、第5回農作業安全検討会(令和3年12月開催)で確認された「新しい安全性検査制度の基本的な枠組み」に沿って、具体化に向けた検討を行っている。
 そのうち、書面審査の適用範囲拡大・申請手続きの簡素化等については、農研機構および農機メーカーとの協議を経て、(1)書面と組み立て後の実機に差異が生じることが避けられない実情を踏まえ、引き続き実機検査を基本とせざるを得ないものの、実機検査省略の対象範囲の拡大や合格後の構造変更に係る手続きの簡略化、リモート確認手法の導入等を通じて、負担の軽減を図るとともに、(2)前記の対応を通じて、検査手数料および農業機械メーカーにおける関係コストの削減を図る―との方向性が示された。具体的な変更点は、次の通り。
 ◎書面審査の適用拡大=代表型式と同等の構造・装備を有する型式は、実機確認を省略し、書面審査のみの実施とする。
 ◎書面審査の簡略化=▽安全性検査(安全装備検査)合格機の構造変更において、安全装備確認項目以外の変更であれば、構造変更届出書の提出を求めない▽安全装備検査におけるタイヤ違いや色・装飾等のデザイン違い等の細かい仕様の変更点については、写真の提出を求めない▽安全装備検査における同一型式の区分違いや実機確認の省略が認められた型式は、CAD図等を写真に代えての書面審査も許容する。
 ◎検査の簡略化・検査手数料の低減=▽安全キャブ・フレーム検査において、要件を満たした場合、企業内での立会い検査制度を導入する。これにより、機材運搬費等を低減▽安全性検査(安全装備検査)合格機の構造変更において、農研機構が可能と判断した場合、リモート確認(リアルタイム)を導入する。これにより、機材運搬費等を低減▽安全性検査(安全装備検査)合格機の構造変更において、OEM機や実機確認を省略した型式は、検査手数料を減額または無償とする。
 ◎事後調査=農研機構が必要と認めた場合(主に、量産化前受検で合格した型式、書面審査により実機確認を省略した型式、構造変更のため書面審査とした型式等)、随時、事後調査を実施する。事後調査の費用はメーカーに求めず、農研機構の経費とする。
 また、安全性検査対象となる5機種について、令和7年4月以降に新たに発売された型式を補助事業等により導入する場合は、安全性検査合格機から選択することを要件化し、購買行動対応の強化を図る。
 ◆スピードスプレヤーの安全対策
 転落・転倒事故や挟まれ事故が多く発生し、安全装備検査基準の十分な検討が必要なスピードスプレヤー(SS)については、農作業安全検討会の下に、安全性検査基準検討部会スピードスプレヤー分科会を設置し、安全対策骨子の具体化を議論してきた。
 そこでの決定事項は、▽SS用ROPS(安全キャブ・フレーム)の強度試験について、令和7年度中の基準化を目指し、メーカーと農研機構で研究コンソーシアムを組み、速やかに検証試験等を行う▽運転者に危害が及ばない構造を、各メーカーで検討していく▽枝下空間条件の具体的な算出方法として、「座面から100センチ上方までの空間を座面幅にわたって確保する」との考えをもとに、パンフレット等に記載して現場に周知していく方向で検討―など。
 また、「転落・転倒」安全対策骨子としては、トラクタのROPS強度試験をベースとした、SSのROPS強度試験に適合するROPSおよびシートベルト(シートベルトリマインダー含む)を装備するという考え方を、安全装備検査基準に盛り込む。「挟まれ」安全対策骨子としては、取扱説明書等で使用者に対して、作業道における安全に作業可能な枝下高や枝下の空間条件等を提示することと、当該型式が規定する枝下空間条件を満たさない位置にある枝等によって運転者に危害が及ばない構造であること―という考え方を、安全装備検査基準に盛り込む。
 ◆道路運送車両法令(道路交通法令)関係
 道路走行中の機体の転倒・転落を原因とする死亡事故のうち、66%が乗用型トラクタによるものであるとの調査結果等から、これまでの検討会で、乗用型トラクタへのシートベルトの装備と運転中の装着を義務化することが、死亡事故防止に有効であると整理された。その過程で参加委員からは、「低速の車両も含め、装備の義務化が必要ではないか」「乗用型トラクタの本来の目的である作業時に、運転者の動作を妨げることがないよう、2点式のシートベルトが望ましいのではないか」などの意見が出されており、これらを踏まえた検討を進めている。
 これについて農林水産省は、農業機械メーカーおよび関係団体、並びに関係法令を所管する国土交通省および警察庁に相談を行い、それぞれの担当部局から概ね理解を得ており、対象機種や適切なシートベルトのタイプ、適用時期などについて、関係機関とさらなる調整を行い、次回以降の検討会で具体的に示すこととしている。
 ◆研修体制の強化
 農林水産省では、農業者の安全意識向上に向けて、「基礎研修」と「実践研修」の開催を推進している。基礎研修は、全ての農家を対象に、共通して身につけておくべきことを学ぶための研修で、同省が提示している研修コンテンツなどを活用した、現場の実状に即した農作業安全に係る知識を得るもの。
 一方、実践研修では、基礎研修の受講者相当の知識を有する農業者を対象に、研修参加者が自発的に農作業安全目標を作成し取り組むように促す対話型研修に加え、農業機械の実技演習や圃場の危険箇所のマーキングなど、より実践的な知識や技能の習得を図る。
 令和5年の基礎研修と実践研修を合わせた受講者数は約5万人で、基幹的農業従事者の4%程度に留まっている。また、令和6年2月現在、全国に約5300人の「農作業安全に関する指導者」が育成されているが、地域で実施されている研修の約55%でしか活動できていない状況である。
 都道府県の農作業安全研修の実施状況と、過去の都道府県別の農作業事故死亡者数について分析すると、研修受講者が2000人以上の5道県では農作業事故死亡者数が2・6人減少、100~500人の16県では1・1人減少となっている。このことから同省は、農作業死亡事故者数の減少には、農作業安全に関する研修の実施強化が重要であるとの認識を示した。
 そこで、県内、地域内の研修等をリスト化した「研修会リスト」の作成と「農作業安全に関する指導者リスト」の整備を行い、関係機関での共有を進めることで、農作業安全に関する指導者の活用を促し、正しい知識の提供・より質の高い研修の実施を推進していくこととした。
 ◆クロスコンプライアンスの導入
 農林水産省では、令和6~8年度の試行実施を経て、全ての補助事業等に対して、最低限行うべき環境負荷低減の取り組みの実践を義務化する「クロスコンプライアンス」を導入することとしている。これにより、同省の補助金等の交付を受ける場合には、環境負荷低減の取り組みの実践が必須となる。
 具体的には、「農業経営体向け」のチェックシートの項目で「正しい知識に基づく作業安全に努める」ことを求め、その取り組み例として「農作業安全に関する指導者による研修の受講などを通じて正しい知識の習得に努めること」をあげている。 クロスコンプライアンスを通じて、研修受講の徹底を図っていくねらいだ。
 ◆農作業安全推進協議会等の設置推進
 農林水産省は、農業者を対象とした農作業安全に関する研修の開催など、県段階や地域段階において農作業安全対策を効果的に講じるためには、行政、生産者団体、農業資材販売店などの関係機関が事故情報や普及啓発方策を共有し、一体的に取り組んでいくことが重要であるとしたうえで、道県内全域で地域段階の農作業安全推進協議会等が設置されている都道府県の数は、令和4年10月時点では8道県であったが、令和5年11月の調査結果では、山梨県、長崎県、沖縄県で新設され、11道県に増加したことを報告した。一方で、死亡事故が多く発生しているにもかかわらず設置が遅れている県もあり、引き続き設置の促進を図る必要性を強調した。

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